2015年夏(35回)スタディツアー感想文
4)鈴木さん(東京都 社会人 女性)
 帰国して1週間が過ぎました。ネパールの塩気の強い食事が恋しくなったこのごろです。出発前に「グルメツアー」と聞いていたように、食べ物に困ることも、非常食に手を出すこともなく無事に帰国しました。

 バクタプルで食べた「ズズダヒ(王様のヨーグルト)」の味が忘れられず、毎日レシピを検索しています。レシピはまだ見つかっていませんが、検索する中でネパールに幾分詳しくなりました。帰国後にはじめてネパールという国の情報を調べている自分になんだか笑ってしまいました。たった10日程度の滞在ではありましたが、ネパールの魅力にとりつかれてしまったようです。

続き
 私は、他の参加者の皆さんとそもそもの動機が異なっての参加でした。自己中心的な理由での参加であり、ネパール自体に強い関心を持っていたわけではありませんでした。出発前に、あわてて長谷川さんの著書『少女売買』を読みました。読み終えて、内容に涙するとともに、これは大変なものに参加してしまったと自分の浅はかな行動に正直後悔しました。

 ネパールや人身売買等に対する強い思いや今後関わっていく覚悟がない私が気軽に参加するべきではなかった、と申し訳ない気持ちで数週間を過ごしたことを記憶しています。最終的にキャンセルをしなかった理由は、知らなければ問題化できないという思いと、出発前に長谷川さんが言っていた「たった10日で何かを変えることはできないけれど、一瞬でも楽しいと思ってくれる瞬間を作ることができる。笑うことで免疫を上げることもできる」という言葉に共感したからです。

 加えて、自己肯定感が深く傷ついていた私は、ネパールに癒しを求めてもいました。ここならなにかの役に立てるかもしれないと。支援やボランティアという思いではなく、特技である「バルーンアート(細長い風船を使って花や動物を作る)」をネパールの人に披露して楽しんでもらおう、そんな気持ちで参加することにしました。

 ほぼはじめて会う方との10日間。不安なままでの出発、長い1日……。正直なところ、3日目くらいまでの記憶は曖昧で白黒写真のようです。環境の違いや人見知りゆえの気遣い、多すぎる情報量などに私のCPUはフリーズ寸前で記憶に色付けができなかったのでしょう。それくらいに充実した時間を過ごしました。結果、私にとって行ってよかった! と心の底から思えるツアーになりました。水関係や衛生環境など、対応困難な状況もありましたが、全部吹っ飛ぶくらい「楽しかった」と「救われた」という思いが占拠しています。

 私が個人的に救われたのは、ネパールの人の瞳です。街中で寝ているおじさんたちの目や夜街の若者たちの目はそうではありませんでしたが、学校に通う女性や子どもたちのまっすぐで澄んだ瞳には、吸い込まれるほどの魅力がありました。楽しそうにはじける瞳。驚いて大きく開かれる瞳。新しいものに興味津々で輝いている瞳。少し恥ずかしそうな瞳。時折悲哀を含んだ瞳もありました。

 けれど、どの瞳も信じられる瞳でした。目の中に星の煌めきが見えました。施設の子どもたちもそうですが、ピクニックで行った公園にいた少年少女にも深い思いを抱きました。私の作るバルーンアートを見て輝かせた瞳に、たくさんの自信をもらいました。嘘や訝しさのない真っ直ぐな瞳。日本で自信をなくしている人は、ぜひこのツアーでネパールに来てください。少しの手品ができれば、あっという間に人気者の気分を味わえます。これほど自己肯定感が満たされることはないと思います。

 一種のセラピーではないでしょうか。一方的に何かを与える関係ではなく、お互いに交換し合える相互作用があることを実感しました。自分がしたことで喜ぶ姿を見て、嬉しくない人はいないでしょう。けれど、素直に喜んだり、嬉しいという感情を表現したりできない日本人はとても多いように思います。今の日本では絶滅寸前の清らかさや透明さがそこにはありました。同時に、この清らかさゆえにだまされることも多いのだろうと歯がゆい思いも抱きました。教育の重要性を再認識するとともに、清らかさを残す教育の難しさも考えました。

 バルーンアートは大盛況でした。念のためと1000本持って行った風船が、帰る時には700本以上消費されていました。みんなに囲まれて崖に追い込まれながら汗だくで作ったことがいい思い出です。参加者の皆さんが作り方を覚えて助けてくださったことも嬉しかったです。悔やまれる点は、どのイベントも風船作りばかりに集中していて、ネパールの皆さんとお話できなかったことです。だけど、風船の記憶はピクニックの楽しい記憶とともに心に刻まれたはずです。

 これから風船を見るたびに楽しかったあの日を思い出してくれるのではないかと考えています。これは想像するだけでとても嬉しいことです。もちろん、私自身もこれから、風船を見るたびにあの嬉しい記憶が蘇るでしょう。たった一瞬の触れ合いが一生続く記憶として力になりうることを思い出しました。ツアーはほんの数日ですが、楽しかった記憶はずっと心の支えになると思うのです。長谷川さんが繰り返しおっしゃっていた言葉の意味を今、実感しています。

 また、瓦礫撤去作業では心身ともに充実感を味わうことができました。瓦礫というよりもレンガ運びでしたが、これが地味に重く、体力の限界を早々と感じました。参加者の皆さんの足を引っ張りながら、現地のおじさんたちのパワーに圧倒されながら、マイペースに活動をさせていただきました。瓦礫撤去ハイみたいに、疲れてだんだんおかしくなるみんなに笑いが止まりませんでした。

 ネパールの人も含めて、チームプレイでひとつになった気がしました。震災の復興は大変なことですが、仲間がいれば乗り越えていけるかもしれません(もちろん、支援はお金! ですけれど)。反対に言えば、仲間がいないと難しいことだと感じました。たった2日間のお手伝いだから頑張ることができました。いつ終わるかゴールが見えない中での作業にはメンタルケアの必要性を感じました。今回の訪問が少しでも活力になるといいなと思います。

 そして、参加者の皆さんが眩しいくらいキラキラしていたことに感動しました。ツアーの途中で聞く言葉や想いにハッとさせられることが多々ありました。学生の皆さんには感嘆し、まだまだ日本も捨てたものじゃないなと少しだけ明るい未来を感じました。社会人の方からは、人生観や今後の自分自身の可能性を教わることができました。人のことを自分のことのように感じられる強さに敬服しました。心のどこかがつながった気がしました。1人じゃないという思いが人を強くさせる気がします。ネパールで商人のように買ったたくさんのお土産は、1つひとつ説明しながら配っています。たくさんの人の心にネパールが根付くように。

 ネパールでの熱が冷めたら、私の心も現実で冷めていくと思いますが、ネパールで経験したたくさんの「HAPPY」で心を温めながら、気球のようにふわりふわりと飛んでいたいなと思います。

 最後になりますが、お礼を申し上げたいと思います。完璧なサポートで無知な私のこの旅を意義あるものに変えてくださった長谷川まり子さん、いつも優しいガイドのラジャさん、ラリグラスの関係者の皆さま、背中を押してくださった佳子さん、そしてそして楽しい旅の仲間の皆さん、素敵なツアーをありがとうございました。長文失礼いたしました。

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