2015年夏(35回)スタディツアー感想文
5)徳山さん(東京都 社会人 男性)
 「だいたい補修は終わってるわよ」
 ホスピスの屋上で日本から持って来た外壁用のボンドでヒビを探しているとラクシュミが話しかけてきた。
 「そうみたいだね、でもせっかくだから気になるとこだけ補修しとくよ」
 お互い言葉はわからないが身振り手振りでなんとなく意味が伝わってくるので遠慮なくこちらも当たり前のように日本語で話す。

ラクシュミ(以下:ラク)「あのときはいろいろな物が落ちてきて大変だったわ」
自分「そうなんだ。でも本当ケガなくてよかったよねぇ」
とお互い微笑んだ。
ラク「帽子かぶったほうがいいわよ」
 強い日差しの中、黙々と気になるヒビを探しては補修してる自分をラクシュミが心配して頭をポンポンと軽く叩いた
自分「うん、帽子持って来たんだけどどこに置いたか忘れちゃってさ、少しだから我慢する」
 ラクシュミはとても優しい女性でいつも気にかけて話しかけてくれる。その優しさは喋り方にも現れていて声のトーンやボリュームが安定していて安心する。再び黙々と補修作業をしているとラクシュミがやってきて

続き
ラク「昼食できたわよ」
と両手を使って口にかき込むフリをした。食事のサインは世界共通だなと笑った。
自分「うん、わかった、あとちょっとだけ」
 そんなわがままを言ったがまたすぐに来て
ラク「早く食べちゃいなさい」
と言われてしまった。まるで母に叱られてるような気がして笑った。
 昼食はチャウチャウラーメン。日本でいうチキンラーメンみたいなものだ。ネパールで食べるとなぜか一段とおいしく感じる。日本を出ると日本の味が恋しくなり、少しでも日本の味がすると安心しておいしく感じるんだろうなあ~と考えてるうちにペロリと完食した。
食事も早々に再び補修をしていると今度はプシュパがやってきた。プシュパは基本的に笑っている、なにを言っても笑っている。
 ボンドをつけてヘラでならす。これを繰り返していると、プシュパがならした部分を笑いながら触ろうとしていたので
自分「触っちゃダメ」
と言ったら爆笑していた。
 せっかくなのでプシュパにも手伝ってもらうことにした。
 ヘラでならす方法を見せてヘラを渡した。すると笑いながらもうまくやってくれた。
自分「お! 新人なかなかやるじゃないか。その調子でどんどんいくぞ」
と言ったら声にもならない声で爆笑していた。
 自分がボンドを塗ってプシュパがヘラでならす。そしてたまに
自分「おい、新人! そこのならしが甘いぞ!」
プシュパ爆笑!
自分「なにわろてんねん!」
プシュパ大爆笑!
 こんな調子で2人で笑いながら屋上の補修を終えた。
 日本に帰り、このときの会話を思い出す。取るに足らない何でもない会話だ。あの大地震で失った物はあっただろうが皆無事だった。もしあのとき……。そんなことを考えたら、このなんでもない会話が奇跡に思えた。本当に皆無事でよかった。生きてればまた会える。また会えればきっと、懐かしい匂いに懐かしい風を感じながら、また何でもない会話をするんだろう。それで十分だと思った。

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